2014年の幕開けによせて
−初夢・最長片道きっぷ−

 九州新幹線鹿児島ルートが全通してからすでに3年近くが過ぎましたが、 最近になって重大なことに気付きました。
 同ルートの全通に伴い、JR全線を対象とした「最長片道きっぷ」 の経路が「肥前山口着」ではなく「枕崎着」になっていたのです!
 ということは、経路が「P形」ではなく「L形」になったということであり、 逆方向の「枕崎発稚内行」も最長経路となりました。 久々に、九州発の最長旅行を楽しむことができます。

 …と、わざとセンセーショナルな書き出しにしましたが、 これには「但し書き」があります。
 「何をもって最長ルートと呼ぶのか」という流儀がいくつかあり、その中の、 比較的マイナーと思われる流儀に従った場合のみ、「肥前山口着」でなく 「枕崎着(発)」が最長になる、ということです。

表 流儀別の最長片道ルート(九州内)
幹在同時利用不可の場合の
最長経路
幹在同時利用可の場合の
営業キロ最長経路
幹在同時利用可の場合の
運賃計算キロ最長経路
幹在同時利用不可の場合の最長経路 幹在同時利用可の場合の営業キロ最長経路 幹在同時利用可の場合の運賃計算キロ最長経路
営業キロ 1216.6km
運賃計算キロ 1245.2km
営業キロ 1224.2km
運賃計算キロ 1251.4km
営業キロ 1216.1km
運賃計算キロ 1265.0km

 このような現象が起きてから3年弱が経過しており、 すでに同様の指摘を誰かがしているであろうことは想像に難くありません。
 そこで本稿では、「最長経路が枕崎発着になった」ということを題材に、「SWA の考える最長片道きっぷの流儀(と言いながら揺れる心)」について、 昨今の情勢も踏まえながら綴りたいと思います。
 久々に書いたと思ったら大して意味のない記事で恐縮ですが、 正月なので勘弁してください。


「最長片道」の流儀

 まず、最長片道きっぷに関する流儀について、かんたんにまとめます。
 人の数だけ流儀があってもおかしくないと思うのですが、 以前の記事「最長片道きっぷの経路を求める [付録2-3] 2004年3月版(質問編九州版)」にまとめたとおり、 流儀間の主な相違点としては以下の3点が挙げられると思います。

 今回、最長経路が「枕崎発着」となるのは、運賃計算キロ最長を目指し、 かつ、新下関・博多間において「幹・在の同時利用」を認める場合に限られます ((3)については、最長経路が当該2区間において復乗とならないので、 どちらの流儀でも可)。
 世間的には、(1)について「営業キロ最長」を求める人が多いようであり、 (2)についても「認めない」派のほうが多いように思えます。 また、(1)や(3)については旅行者の気持ちの問題ですが、 (2)についてはJR各社間でも見解が統一されておらず、 「そもそもJRが(2)を認めていない」という見方もできます。
 つまり、最長経路が「枕崎発着」となるのは、 相当マイナーと思われる流儀を採用する場合のみ、ということになります。 「記念碑まで設置した肥前山口駅が、実は最長経路の終着駅でなくなっていた!」 という重大ニュースが全く話題にならなかったのもうなずけます。


大旅行から13年、SWA の流儀は?

 さて、SWA(個人)が、 多数の方々の支援を得て最長片道きっぷの旅に出たのが2000年の夏のこと。 それからすでに13年以上が経過しました。
 当時、SWAの採用したのが、まさにこの「相当マイナーな流儀」でした。 たとえば、運賃計算キロ最長を目指したために相生・東岡山間は赤穂線を経由しましたし、 香椎・西小倉間での幹・在同時利用、博多・吉塚間の復乗と、 見る人が見れば「邪道」な経路を、 たまたまJRに認めてもらって発行された乗車券を使い、たどってきたのでした。
 そして今、あらためて「最長片道きっぷ」の流儀について考えると、 当時よりさらに難しくなっているなと感じます。

課題1:「運賃計算キロ最長」を目指す理由

 まず、最長とすべきは営業キロなのか、運賃計算キロなのかという点。 以前は純粋に「気持ちの問題」だったと思うのですが、 今は「運賃計算キロ派」が岐路に立たされているといえます。

そもそも、なぜ運賃計算キロ最長か

 SWA が「運賃計算キロ最長」を追い求めた理由を簡潔に述べるとすれば、 やや不正確な表現になりますが「一番高額な乗車券を買いたい」と思ったからです。
そもそも「最長片道きっぷ」というお遊びが成立するのは、 JRの定めた「片道乗車券の発売要件」という制約が存在するためで、 「乗車すること」というより「乗車券そのもの」に面白さがあると思っています。 そしてその面白さは、時刻表のピンクのページにある運賃表を眺めて、 「この表の中で一番高い運賃が適用されるきっぷを見てみたい」という、 子供のころの素朴な好奇心の延長上にあるのではないかと思うのです。

BRT をどう扱うか

 その思いは当時から変わらないのですが、今、全国のJR線を眺めると、 最長片道きっぷ的に悩ましい路線が存在します。BRT で暫定開業した気仙沼線・大船渡線です。当該区間はあくまでJR線であり、 通しの片道乗車券も発売されるので最長ルートに組み入れたいところですが、 運賃計算は「BRT 前後の運賃計算キロを通算して算出した鉄道運賃と、BRT 区間の運賃の合算」となります。
 この運賃計算方法は、「運賃計算キロ派」にとって2つの点で問題です。 まず1点は、BRT 区間について、運賃計算に運賃計算キロ(換算キロ)を用いないこと。 もう1点は、BRT 区間の距離を抜いたものを運賃表にあてはめるため、BRT を含んだ最長経路より、「BRT を含まないという制約の下での最長経路」のほうが「運賃表の、 より高額な欄の運賃」を適用される可能性があるということです。

 このまま「運賃計算キロ最長」を追求するならば、BRT 区間は対象外とすべき、となります。それは旅行者としては寂しい。 しかし「運賃計算キロ派」を名乗るからには、 実際の乗車ルートには目もくれず、 ストイックに乗車券だけを見て運賃計算キロの長さを追い求めるべきではないか。 いやそもそも、こういった状況下で運賃計算キロにしがみつく理由があるのか…。 答えはまだ出ていません。

 蛇足ながら、BRT に関しては「JR鉄道線と距離を通算して運賃計算するわけではない」 「そもそも鉄道ではない」等の理由で、「営業キロ派」の中にも、 最長ルートに組み込むかどうか悩んでいる人がいるようです。 国鉄時代の「国鉄バスを最長ルートの対象に加えるかどうか」 という選択肢に近いものがあるかもしれません。
 SWA としては、BRT が旅客営業規則に規定されているJRの路線であること、 有効日数等の面において鉄道と同等であること、 そして紛れもなく鉄道の暫定的な代替交通手段であることから、 最長ルートの対象には加えるべきだろうと思っています(おっと、 これも「流儀間の主な相違点」ですね)。

課題2:結局どうなのか「新下関〜博多間の幹・在同時利用」

 次に、幹・在の同時利用について。 これについては2004年当時の記事「最長片道きっぷの経路を求める [付録2-2] 2004年3月版(質問編)」 において「同時利用不可」という結論を出しており (2000年当時からすると心変わり)、今も基本的には同じです。 しかし、一趣味人としてはなお、「同時利用可」とする流儀に未練があり、 複雑な心持ちです。

 「同時利用可」に可能性が多少なりとも残っている以上、 自主規制でこれを封印するのはどうか…という気持ちは、 今もなお、確実にあります。
 「同時利用可」という判断で乗車券が実際に発売された例も私以外に複数あるようで、 もし運良く「同時利用可」という判断が下されたなら、 「枕崎→稚内」という、運賃計算キロ最長の片道乗車券を手にできるわけです。 そしてその運賃計算キロは、当然、 「同時利用不可」の場合より長いものになります。

 しかし、個人の気持ちがどうあれ、 そもそもJRが「同時利用可」と言ってくれない可能性が比較的高い、 というのが現実です。「同時利用可」という立場で最長経路を計算したとしても、 単なる机上の空論に終わるかもしれません。 2000年当時と今日現在で、JR各社の見解がどう変化しているかも分かりません。
 また、本来あるべき姿(JRが意図した制度設計) が「同時利用不可」であろうことは想像に難くありません。
 これらを総合すると、「同時利用不可」 というルールを自ら定めて気持ちに区切りをつけるというのが「大人の判断」 なのだろうと思います。2004年のSWA(個人)も一応「大人」だったか…。


まとめ

 長くなりましたが、最後にまとめると、「枕崎発着の最長片道きっぷ」は、 「発売されるかどうか分からない」うえ、 「運賃計算キロ最長という流儀を選択する理由が乏しくなっている」ことから、 実際には「幻の最長片道きっぷ」で終わりそうです。
 枕崎発稚内行の最長片道きっぷで旅行開始!  …そんな初夢を見られたとしたら、今年はどんな一年になるでしょうか。



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最終更新: 2014年 1月 1日
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