首都圏〜関西 ツアーバス体験記 (2)

Summary

 首都圏と関西を結ぶツアーバスに実際に乗ってみた記録の第2弾です。 今回選んだのは西日本ツアーズ主催「Star Express」の「ロイヤルスリーパー」(3列シート車)です。 乗車日は2004年12月30日、東京(新宿)から大阪(梅田)まで乗りました。
 なお、ツアーバスに関する一般的な情報は、別の文書「東京・大阪間の格安バスツアー」にまとめてあります。


2カ月前に満席、しかし…

 12月30日の夜行に乗ろうと決めたのは11月の上旬。 ふつう、夜行の路線バスは出発の1カ月前から予約開始なので、 2カ月近く前ならツアーバスでも楽勝だろうと思っていたが、甘かった。 まず、東急観光にオリオンツアーの3列シート車を申し込んだら、 返答が「3列は満席、スタンダード席のみ予約可能」。 あわてて他社を調べてみたが、Web で調べのつく限り、3列シートの空席はまるでなかった。 2カ月前から埋まってしまうほどの人気なのか、と驚いた。 ツアーバスが「安価な夜行バス」としてかなり浸透してきたのだろう。
 あきらめて通常の路線バスで帰ろうかとも思ったが、 路線バスは8500円強、ツアーバスは3列シートでも6200円(西日本ツアーズの場合)。 価格差は相当なものだ。
 どうにもあきらめきれず、 リアルタイムで空席状況が分かる西日本ツアーズのサイトを毎日見ていたら、 11月14日、信じられないことが起きた。 これまでずっと残席ゼロだったのに、突如、残席が20以上になっていたのだ。 あわてて予約し、何とか貴重な席を手にした。
 一息ついてからあらためて空席状況を見てみると、 12月30日だけでなく、28日、26日、24日…と、偶数日出発の残席が軒並み増えていた。 おそらく、3列シートの観光バスを追加でもう1台確保し、 偶数日は東京から大阪へ、奇数日は大阪から東京へ運転することになったのだろう。
 帰省シーズンなど、特に混むシーズンは早めの予約が基本だが、 以上のように、出遅れてもこういう「敗者復活」があるかもしれない。 あきらめずにしつこく問い合わせるといいだろう。 といっても、さすがに毎日「空席ある?」と電話をかけるのは気が引ける。その点、Web でリアルタイムに空席の分かる西日本ツアーズは、 毎日空席を問い合わせても人の手を煩わせることがなく、ありがたい。

 西日本ツアーズのバスの予約は実にかんたんで、Web で空席照会して、空きがあれば Web で予約、 決済(クレジットカードもしくはコンビニエンスストア払込)できる。 予約が済むと電子メールが届くので、 当日はこのメールを印刷したものを持っていけばいい(きっぷは不要)。

路線バスでは「追加便」は要注意

 蛇足ながら、路線バスでも席の埋まり具合によってバスが追加されることはある。 しかし路線バスの場合、同じ運賃を支払っているのに、 最初の数台はふだんから走っている3列シート車、 あとで追加した数台はふだん走っていない4列シート車、 といったこともあるので注意が必要だ。 実際、今回ツアーバスに乗る前に見た夜行の路線バス〔やまと号〕 (新宿〜奈良方面)は、最後の1台が4列シートだった。
 なお、路線によっては「何台走っても必ず3列シート車」というところもあるし、 「4列シート車だったら運賃を割り引きます」というところもある。 心配なら予約時にバス会社に問い合わせるのが無難だ。


集合場所は大混雑

 さて、乗車当日の12月30日。 集合時刻は23時10分だったので、23時過ぎに新宿駅西口に行った。 指定された乗り場は八十二銀行前。 新宿駅や小田急百貨店を真正面に見る位置で、 中央高速バスのターミナルに近い。 慣れればJRの西口改札を出てから5分程度で着くだろう。
 場所はすぐ分かったのだが、そこでしばらく途方に暮れた。 出発を待つ人があまりにも多く、どこが受付だか分からないのだ。 この場所は西日本ツアーズだけでなく、 10社近くの旅行会社が集合場所として使っているようだ。 歩道は出発待ちの人で埋め尽くされ、歩くだけでも一苦労だ。
 しばらく歩き回って、行列が1本ではないということが分かってきた。 が、どの行列がどのツアー会社なのか、ということはよく分からない。 地上スタッフはみんな同じ黄色いジャンパーを羽織っているが、背中には「SKI TOUR」とか何とか書いてあるだけで、どのツアー会社の人かは分からない。 おそらく、1人のスタッフが何社かの受付をまとめてやっているのだろうが、 行列が複数できている以上、のぼりなり看板なり、 何らかの案内はほしいところだ。
 長年の経験と勘…というほどのものではないが、 私は消去法でそれらしき行列を見つけ出し、並んだ。 結果的にはこれが正しい列だった。 行列の長さは数十m、これでは定刻に発車できるかどうか怪しいが、 それでも行列の進みは意外に速く、10分足らずで受付は済んだ。 受付といっても、五十音順か何かの「参加者名簿」に蛍光ペンで色を塗り、 「あなたは2号車です、 バスの場所はホワイトボードで確認してね」と言われておしまい。
 その程度の応対しかできないほど地上スタッフが忙しいのだ。 数十mの行列をさばきつつ、 「○○行はこの行列でいいんですか」と割り込んで質問してくる人にも答えないといけない。 この「地上スタッフの削減」が格安運賃の秘密の1つなのだろうが、 スタッフの能力を超える人数の参加者が来ると何が起きるか、 これから目の当たりにすることになる。


偶然発見、今夜のバス

 少し西のほう(駅から離れる側)へ進むと、角に人だかりができている。 ここに小さなホワイトボードがあり、何号車がどこに停車しているか、 というのが書いてある。 同じ番号のバスが2台いる(たとえば、 「オリオンツアーの2号車」と「西日本ツアーズの2号車」が別々に存在する)こともあり、 なかなか分かりにくい。 私の乗る「西日本ツアーズの2号車」は「未到着」の欄にあった。 23時30分発車予定なのに23時20分には未到着、というのもひどい話だが。

発車を待つバス(とうりゅう観光)

 することもないのでバスでも見物して待つか…そう思ったとき、 少し前方に見覚えのあるバスが停まっていた。 ひょっとして…と思って見てみると、ビンゴ。 毎度おなじみ「とうりゅう観光」の3列シート車が、 「2号車」という紙を貼って待機していた。「Star Express」という紙も貼ってあったのでまちがいない。 実は、さっきの受付で名簿をちらりと見たところ、 私の名前の横に「とうりゅう」と書いてあったので、 とうりゅう観光のバスに乗るということは分かっていた。 そこで、それっぽい色のバスを探していたら、見事に見つかったのである。
 というわけで、今晩もお世話になるのはとうりゅう観光の3列シート車。 これまでオリオンツアー主催の3列シート車を2回利用しているが、 バスは2回ともこの会社。今度は別の旅行会社が主催だから、 ちがう会社のバスが見られるだろうと期待していたのだが、 結局は同じ会社なのだった。

3列シート車の車内

 前回と同じく、車内は「かなり古めの高速バス」そのもので、 読書灯やシートヒーターなどは予想どおり壊れていたが、 もちろん3列シートではあるので、特に不満はない。 ただ、指定された7番C席というのがトイレの真後ろで、 足が伸ばせないのはかなりの誤算だった。 あと、ひざかけが全席に用意されていたのは目新しい。
 バスはほとんど空っぽだったので、 とりあえず自分のシートを7割程度リクライニングさせ、 ついでに後ろの席のシートも少し倒しておいた。 後ろの人が座ってから自分のシートを倒すと、 たまに「そんなに倒すな」と言われたり (リクライニングが浅くていいなら安いスタンダード車に乗ればいいのに)、 ひどい場合には足で前席のシートを押さえつけて「リクライニング封じ」されたり、 ろくなことがない。 たしかに、3列車でシートをいっぱいに倒すとかなりの圧迫感があるが、 もともとそういう仕様なのだし、自分もシートを倒せば気にならない。 特にこういうツアーバスでは、 わざわざ追加料金を払ってグレードの高いシートを得ているわけで、 せっかく得た機能をあえて殺せと言われると、私は即座には応じかねる。


遅刻者続出、その理由は…

 すっかり下準備を終えたものの、乗客はいっこうに増えない。 23時30分発車だというのに、発車時刻を過ぎても乗客はわずかに5人だ。 もちろん今晩は満席で走るはずだし、 さっきのペースだと受付で大渋滞ということもなさそう。何が起きたのだろう。
 発車を待っていると運転手さんのグチが聞こえてきた。 前のほうに座っている乗客が「いつもこんなに出発が遅れるのか」と尋ねたところ、 「毎週こう、遅かったらごっつう遅れる。こっちも困るわ」だそうである。 「こっちも困るわ」などと他人事のように言われると乗客も困るのだが、 気持ちは分からなくもない。 2人乗務とはいえ、高速道路を夜通し走るのはけっこうな重労働。 発車が遅れれば到着も遅れ、結局は勤務終了時刻に響いてくるだろう。 また、旅行を主催する会社とバスを運行する会社は別であって、 バス会社は旅行会社の下請けにあたるから、 バス会社から旅行会社に対して改善を要望するのは、 立場上ちょっと難しいかもしれない。格安ツアーバスの安さの一因は、 過当競争で苦境に立つ観光バス会社の「出血大サービス」にあるのだろうな、 などと想像すると複雑な心境だ。

 さらに10分ほどして、 若い女性2人(実は隣の席の乗客)がものすごい剣幕で飛び込んできた。 バスの位置を示すホワイトボードではこのバスが「未到着」のままになっていて、 歩いていてたまたまバスを見つけたからよかったようなものの、 危うく乗り遅れるところだったじゃないか!というのである。 …なるほどね。どうりで人が集まらないわけだ。 忙しさのあまり、バスから地上スタッフへの「到着報告」が忘れ去られたのだろう。 お怒りはもっともだが、10分も20分も怒り狂うのはどうかと思う。 「新幹線や飛行機じゃこんなことあり得ない」などと叫んでいたが、 新幹線のクオリティがお望みならツアーバスに乗るべきではない。
 原因は分かったものの、地上スタッフとの連携が悪く、乗客はほとんど来ない。 23時50分現在、車内にいた乗客はわずかに9人。 参加者の氏名を把握しているツアーバスでは、 よほどのことがない限り全員が揃うまで出発を見合わせるとは思うが、 へたをしたら1人か2人、集合場所に来たのに乗り損ねる人が出るかもしれない。 運転手さんも「もうアカンわ今日」とあきらめ顔。
 あらためて外を見ると、集合場所は単に「八十二銀行前」となっているが、 バスは広範囲に散らばっていて、スタッフといえども全体像を把握するのは困難だ。 公共の歩道を乗降のために長時間占有することの是非も含め、 こういう状態でツアーバスは持続可能なのだろうか?と心配になる。

 0時04分、ようやく地上スタッフに話が通ったようで、 黄色いジャンパーの人があわててやってきた。 その後、10分足らずの間に乗客が続々と到着。 他のバスがあらかた出発して、さすがに客が減ったのだろう。 乗るやいなや「3列だよ!」「ひざかけがある!」「トイレがある!」と感動しまくっていた人がいたが、 そういう諸条件を承知したうえで、 自らの意志でわざわざ高いバスを予約したのではないのだろうか。 往路でよっぽどひどいバスに当たり、その落差に驚いたのだろうか。
 0時15分ごろ、ようやく新宿を発車。乗客はほとんどが若い女性だった。 発車するとすぐに「トイレは小のみ」という放送があり、苦笑。 夏に乗ったときには「タンクが小さいので『なるべく』小のみ」と言われたのだが、 このへんは運転手さんの気分によるのか。
 新宿発の関西方面行だと、 路線バスならまずまちがいなく首都高速新宿線から中央道に入るのだが、 このバスは何を思ったか首都高速を都心に向かって走り出し、 気がついたら霞ヶ関だった。 ということは首都高速渋谷線から東名高速に入るのだろう。 中央道は東名よりアップダウンが激しく、 燃料の消費量に有意な差が出るという話を聞いたことがあるが、 ひょっとしたらそういう理由だろうか。 この時期だと雪を嫌ったという可能性もあるか。
 2度目の赤坂を通ったところで寝ることにした。 最初の休憩場所は富士川SAで、約1時間半で着くという。


結局は定時到着

 足元が狭いながらも、疲れと耳栓のおかげでそれなりによく眠り、 途中の休憩にも気付かないまま、目を覚ますと中津だった。 あと5分ほどで梅田に着く。このバスは難波まで行くという。 時計を見ると7時15分、あれだけ出発が遅れたのに予定の時刻より早く着いた。 遅れを挽回するために休憩を削るなど、 見えないところで運転手さんの努力があったのかもしれない。 また、行程表だと京都にも寄ることになっているのに、 実際には寄らなかったようなので(京都で降りる人を1台のバスにまとめてしまえば、 残りのバスは京都に寄らなくていい; こういう割り振りのノウハウはスキーツアーの主催で培われたものだという)、 そこで数十分をかせいだのかもしれない。
 梅田といっても広い。どこで降ろされるのかと思ったら、 JR大阪駅と阪急梅田駅の間、JRのガード下にバスは停まった。 初めて大阪に来た人なら迷うこと必至だが、不便な場所ではない。 半分強の乗客を降ろし、バスは難波へ向かっていった。


ツアーバス、ここに注意

 私自身、ツアーバス形式の夜行バスに乗ったのはこれが3度目だが、 最混雑期に乗ったこともあり、問題点がいろいろ見えてきた。 ツアーバスを「安い高速バス」として活用するために、 利用者は何に注意すればいいか、 (ほとんど繰り返しになるが)これから乗る人のためにまとめておく。

発売状況はこまめにチェック

 ほとんどの路線バスは「乗車日の1カ月前から予約開始」といった売り方だから、 1カ月前までに予定を決めてしまえば、よほどのことがない限り席は確保できる。
 しかしツアーバスは、「1月から3月分を12月中旬に発売開始」というふうに、 ある期間のものを一気に売り出すことが多い。 旅行する時期によっては、出発直前まで予約ができずに気を揉んだり、 逆に出発の数カ月前から売り出されていて思い立ったときにはすでに満席だったり、 いろいろなパターンが考えられる。
 もし、少しでも「旅行するかも」と思ったら、 まずは「発売されているか」「発売されていれば空席はあるか、 まだなら発売はいつか」をチェックしておこう。 通常は出発の3週間前までは取消料がかからないので、 多少のめんどうを覚悟で「見込み予約」しておくという手もある。
 また、たとえ満席でも今回のように「追加設定」があるかもしれないし、 少数ながらキャンセルが出るかもしれない。 もし満席でもこまめに空席状況をチェックしよう。

遅刻厳禁、でも遅れは覚悟

 今回、新宿を出発するのが40分以上も遅れた。 この遅れはさすがにイレギュラーなものだと思うが、ツアーバスに、 電車や路線バスのような「時刻どおりの運転」を期待してはいけない。 翌朝の予定には十分なゆとりを持っておこう。
 また、ツアーバスは乗客の名前や連絡先がすべて把握されていて、 よほどのことがない限り、最後の1人がそろうまで発車しないのがふつうだ。 だから、定時で出発できるかどうかは利用者の心がけにかかっている。 ツアーの行程表には「発車時刻」のほかに「集合時刻」も書いてあると思うが、 「発車までに着けば何とかなるだろう」などと考えると、 同じバスに乗る人に迷惑をかけることになる。 集合時刻までには確実に集合場所に行き、なるべく早く受付を済ませておきたい。

主催者を把握しておく

 ツアーバスにはいろいろな会社が関わっている。 ツアーを販売する旅行会社、ツアーを主催する旅行会社、 実際にバスを運行するバス会社などだ。 これらの会社名をある程度は把握しておかないと、 集合場所でまごつくことになる。
 こうしたツアーで中心的な役割を担うのは「主催旅行会社」であり、 旅行者はこの会社と契約を結んでツアーに参加しているので、 主催旅行会社の名前は必ず把握しておきたい。手元にパンフレットがあれば、 必ず「主催:○○ツアー(株)」のような記載があるだろう。 複数の会社名が書いてあって判断がつかなければ、 最悪でもツアーの名称(オリオンツアーなら「関西バス」、西日本ツアーズなら「Star Express」など)は頭に入れておこう。
 実際にバスに乗る際には、 「どこの旅行会社でツアーを申し込んだか」ということは重要ではない。JTB で買おうと日本旅行で買おうと同じツアーなら扱いは同じだし、 買った店の人が現地で世話をしてくれるわけでもない。 現地では主催旅行会社の人を頼るしかない。
 また、主催旅行会社が自らバスを走らせることはまれで、 たいていは「主催旅行会社の依頼を受けたバス会社」がバスを走らせる。だから、 バスの車体を見ただけでは「どのツアーがどのバスか」ということは分かりにくいし、 バスを探すときに手がかりになるのはやはり主催旅行会社の名前ということになる。

集合場所ではアンテナを高く

 今回のように、1つの集合場所に何社ものツアー参加者が集中することも珍しくない。 受付が済んでも、自分の乗るバスを見つけるまでは安心できない。
 添乗員が同行する団体旅行とちがい、 このツアーはスタッフがほとんどめんどうを見てくれない。 状況をよく見て、分からないことがあれば尋ねるなど、 常にアンテナを高くして「自分の行く先」を把握しておこう。



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最終更新: 2005年 1月10日
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