運転免許騒動記
指定校でいいのか?

 免許取得費用の大半を占めるのは自動車教習所の授業料であるが、 これをどこまで切り詰められるのか。 そのことに注意して「免許のおねだん」を調べてみると、 「指定校」という言葉にぶち当たる。


「指定校」って何?

 免許を持っている人の大半にとっては周知の事実だと思うが、 このページを読む人の中には少なからず「免許不所持」の人がいると思うので、 大多数の自動車教習所がどういう位置づけにあるのかを書いておく。

 そこらの自動車教習所の看板には、 たいてい「○○公安委員会指定」とか「××公安委員会公認」 とか書いてあると思う(ちなみに前者が正しい表現)。 これは単に「公安委員会ご推薦の比較的マトモな教習所」という意味ではない。 試験業務の一部を委託されている教習所という意味である。
 より具体的に書くと、 前述のような看板を出している公安委員会指定の教習所(以下「指定校」)では、 本来なら運転免許試験場で受けるべき技能試験(に相当する検定)を校内で受けられる。 ただそれだけのことである。
 したがって、 逆に言えば指定校を卒業しなくても運転免許は取れる。 もちろん、その場合には学科試験、 技能試験ともに運転免許試験場で受けるわけだが、むしろこれが本来の姿である。


「指定校」の画一性の源泉は…

 さて、単なる自動車教習所ではなく、 自校の中で技能試験ができる「指定校」になるためには何が必要か。
 道路交通法を読むと分かるが、指定校になるためには厳しい基準がある。 また、校内で行う技能検定の受験資格についても定められており、 自分の能力に応じて教習の一部をスキップすることができないようになっている。
 道路交通法は比較的読みやすいので、 時間のある人は関係する部分だけでも一読をすすめる。 何せここは「あいてー国家」日本であるから、関係法令は「電子政府」の法令データ提供システムで読むことができる。

狭い指定校は作れるか

 まず、道路交通法第99条には指定校の要件が以下のように定められている。

  1. まともな管理者がいること
  2. まともな検定員(=試験官)がいること
  3. まともな指導員がいること
  4. まともな設備があること
  5. まともな運営をしていること

 何が「まとも」かは、道路交通法や道路交通法施行令、 道路交通法施行規則などに書いてある。たとえば、設備に関しては、 一例として以下のような基準がある(施行規則別表第3の2から、 普通免許のとれる指定校の基準を抜粋)。

 この決まりのため、土地が高いからといって極端にコースを狭くすると、 もう指定校にはなれない。

「能力別」にできない事情

 さらに読んでいくと、校内で行う技能試験(正確には「技能検定」)について、 以下のようなことが書いてある。

  1. 規定の教習を終えていない人に検定を行ってはならない(法99条の5)。
  2. ここでいう「規定の教習」とは、 「何も免許を持っていない人が普通免許をとる」ときの卒業検定の場合、 技能34時間、学科26時間である(施行規則33条、同別表第4)。

 この規定により、 指定校を卒業するには合計60時間以上の受講が必須となっている。 「運転のセンスがあると判明すれば3日で卒業できます」、 あるいは「丸暗記の得意な人は学科講習免除」などという指定校は存在し得ないのである。
 本来、運転免許を取るための試験は、 18歳以上なら原則としてだれでも受けられる。 勉強や練習をしたかどうかは問われず、試験に通れば万事OKだ(ただし、 仮免許をとってから本免許を受けるまでの間には、 免許取得後3年以上の「指導者」をつけて、 路上で5日間以上の練習をすることが必要)。
 ところが、 運転免許試験場で技能試験を受けるかわりに指定校で卒業検定を受ける場合、 前述のとおり60時間以上の教習を受けておかないと受験資格が得られない。 「警察のやっている試験より、 通い慣れた教習所の検定のほうが安心」という人もいるだろうが、 その代償はかなり大きい。

 以上のように、指定校の設備や授業の形態にはかなり厳しい制限があり、 通常はその制限をぎりぎりクリアしようと考えるので、 いきおい世の指定校は、料金やカリキュラムの面で互いに似通ったものになる。 そして、その教習料金はおしなべて高い。
 思うに、現在の指定校に求められている基準は「過剰品質」である。 神聖なる警察の行う試験業務を得体の知れぬ民間に委託するのだから、 その際には十分すぎる条件をつけてこれを遵守させ、 免許の乱発を防ごう…そういう意図が感じられる。


教習所は指定校だけではない

「一発受験」と指定校の溝を埋めるもの

 指定校に入ると、最低60時間の講習と、それに対する授業料が必ずついて回る。 しかし、まったく運転の経験がない人がいきなり運転免許試験場に行っても、 試験に受かる可能性は低い。
 この溝を埋める教習所も世の中には存在する。 つまり指定校でない教習所である。 指定校でない教習所でも公安委員会に届出をすることはでき、 そのような教習所を「届出校」と呼ぶことがあるが、 免許を取得する手続き上、届出の有無は特に重要でない。

多彩な顔ぶれ

 「指定校でない教習所」には、指定校にあるような事細かな制限が課されない。 したがって多種多様な教習所が存在する。
 私も全貌を把握したわけではないのだが、今まで見た例をいくつか挙げておく。

  1. コースや校舎が狭いので指定校にはなれないが、 技能に関しては指定校と似たカリキュラムで教習を行うもの
  2. カリキュラムはなく、1時間いくらでコースや車を貸し出し、 指導員が指導を行うもの
  3. 免許の取り消しを食らった人を主な対象として免許取得のめんどうを見るもの
  4. 学科試験をどうしても突破できない人に講義をする塾のようなもの

 最後のはもはや自動車教習所と呼ぶべきかどうかも分からないが、 ともかくニーズに応じた個性的な教習所が多い。 これらをうまく活用すれば、自分に足りない技能や知識だけを補えるので、 時間とお金を節約できる可能性が高い。 (指定校でも、こうした「アラカルト的メニュー」を用意しているところはある。 ただし、 まったくの初心者がそうしたメニューを受講できるかどうかは分からない。)
 ただ、これらの教習所は指定校に比べると規模が小さく、広告や看板も少ない。 自分の身近にそういった教習所があるのかどうか、 少しまじめに調べないと分からないかもしれない。 また、公安委員会に届け出なくてもこうした教習所は開設できるので、 中には試験場のすぐ前で呼び込みをやるような怪しげな店(?)もある。
 ちなみに、1、3、4については、 いずれも神奈川県の運転免許試験場がある二俣川駅の近くで発見したものである。 試験場の近くに集中しているのは、 試験場のコースに気軽に触れられる(休日には試験場で練習も可能)、 あるいは試験前に気軽に寄れるというのが理由だろう。 また、2については、実家の目と鼻の先にある「本山交通公園」という施設である。 特に運転免許試験場に近いというわけではなく、ふつうの住宅街にぽつんと存在し、 警察OBらしき人が指導をしてくれていた…のだが、 2003年3月をもってこの「個人指導」は廃止されてしまった。


非「指定校」の泣き所

 しかし、だれもがこのような教習所の恩恵にあずかれるかというと、 現実はそうなっていないように思う。 特に運転免許試験場に行きにくい人には厳しいだろう。

一発合格でも試験場に5回行く?

 指定校に通う場合、運転免許試験場に出向くのは通常1回だけ、 最後の最後に学科試験を受けるときだけでよい。 学科試験に落ちる人はもちろん皆無ではないが、率としては低いので、 大半の人は1回だけで済むだろう。
 しかし指定校に通わない場合、仮免許の試験、 本免許の試験と必ず2回は運転免許試験場に出向く必要がある。 試験場によっては学科と技能を同一日にできない(学科に合格したあと、 技能試験の日程を指示される)ところもあるので、 そういうところだと最低4回は出向く必要がある。 技能試験は1回で合格する率がそれほど高くなく、落ちればもう1回追加だ。
 さらに、技能試験に合格しても免許証は即日発行されず、 「取得時講習」というのを先に受けねばならない。 取得時講習は最寄りの開催地(多くは指定校?)で受けられるが、 講習を受けたあと、免許の交付を受けにもう1度試験場に行く必要がある。 取得時講習は、 一部の届出校で前もって(仮免許の段階で)受講しておくことができるようだが、 これを実施している教習所は少なそうだ。
 以上、試験場に出向く用事を列挙したわけだが、試験場はお役所であるから、 これらの試験場通いはすべて平日でなければならないという制約もある。 学生ならともかく、暦どおりに勤務する会社員だと非常に厳しい。 (指定校でも、休日は教習のみで検定を行わないところがあるので注意。)

コースに依存する技能試験

 また、運転免許の技能試験(検定)においては、前もって試験コースを把握し、 ポイントを押さえておくことが重要だといわれているが、 この点でも試験場が身近なところにないとつらい。 指定校なら練習に使うコースで技能検定を行うので、この種の苦労はいらない。
 当初、私は「技能があればどんなコースだろうとうまく走れるはずで、 ある特定のコースを念頭においた学習を行うのは邪道だ」と思っていたのだが、 実際に試験を受けた人の話を聞くと、どうも正論を貫くのはなかなか難しいようだ。 技能試験の内容が実際の運転からかけ離れていて、 用意したチェックポイントを「超模範演技」でクリアしないと合格できないようになっていることが原因の一つではないかと思う。
 最近は、一部の運転免許試験場が土休日に試験コースを開放しているので、 有料ながら実際の試験コースで練習することができる。 これを利用すればコースを知らないことによる不利益は被らなくて済むが、 しかしこれも、試験場から遠いところに住んでいたら何度も通えないだろう。


そして、それぞれの教習所選び

 以上、「指定校」をキーワードにして免許取得前の練習について考えてみた。 世間では「免許を取るなら指定校に通うのが必須」と思われているふしがあるが、 ここまで読んできた人は、この「常識」が必ずしも正しくなく、 実はさまざまな選択肢が隠されていたことに気付いたと思う。

教習所は予備校だ!

 ここから先はケースバイケースであるが、 時間と金があり余っているのでなければ、 まず指定校以外を検討するのが筋だろう。本来、自動車教習所は、 自分一人で勉強のできない受験生を手助けする予備校のようなものであって、 指定校という「フルコース」を安易に選択するのではなく、 自分に足りない部分を「アラカルト」で補うのが本来の姿であると、私は思う。
 練習するための車と場所があれば、教習所にまったく通わなくていいのである。 受験直前に完全従量制の教習所で2時間ぐらい指導してもらうという選択肢もある。 「運動は苦手だが勉強ならまかしとけ」という人は技能だけ教習所に頼ればいい。 盲目的に指定校に通って、 学科の授業で居眠りするのは金を捨てているようなものだ。
 実際問題として、自分のニーズに合った非「指定校」を探すのは難しいし、 前述のとおり試験場が近くにないと厳しい。 しかし、盲目的に指定校を選択する前に、そのほかの手段を検討してみる価値はある。



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最終更新: 2003年 4月19日
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